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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)39号 判決 1997年5月29日

フランス国

78430・ルーブシエンヌ、ベー・ペー・45、ルート・ドウ・ベルサイユ、68

原告

ビュル エス.アー.

(旧名称)

コンパニー・アンテルナショナル・プール・ランフォルマティク・セーイイ・ハニーウェル・ブル

同代表者

ミシェル コロンブ

同訴訟代理人弁理士

川口義雄

中村至

船山武

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

赤穂隆雄

及川泰嘉

菅野嘉昭

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第3582号事件について平成4年11月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年5月29日(優先権主張 1980年5月30日 フランス国)、名称を「計算またはデータ処理のための携帯用装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和56年特許願第81259号)したが、昭和63年12月6日拒絶査定を受けたので、平成元年3月6日審判を請求した。特許庁は上記請求を平成1年審判第3582号事件として審理し、同年11月24日特許出願公告(平成1年特許出願公告第55511号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成4年11月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年12月9日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

手動によるデータ入力のためのキーボードおよびディスプレイを備えたケースを含んでいる、計算またはデータ処理のための携帯用装置であって、

前記ケース内に配置された第1のマイクロプロセッサおよび第1のメモリを含んでおり、第1の組の所定のデータ処理操作を遂行するために、前記キーボードおよび前記ディスプレイに結合されている第1の処理手段と、

前記第1の処理手段に対して開路可能に電気的に接続される着脱可能な担体にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2のマイクロプロセッサおよび第2のメモリを有する第2の処理手段を具備している着脱可能な担体を、その中に受け入れるためのスロットと、

前記第1の処理手段と前記第2の処理手段とを接続する単一の導体上での信号の変化により、前記第1の処理手段と前記第2の処理手段との間においてシリアル・ビット形式でメッセージを双方向に伝送するための手段を備えており、

前記第1および第2のメモリは、双方向性の通信を実行し且つ前記第1および第2の組のデータ処理操作を実行するように前記第1および第2のマイクロプロセッサを制御するためのプログラムを格納していることを特徴とする携帯用装置。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  特開昭54-94855号公報(本訴における甲第7号証、以下「引用例1」という。)には、「個人は、大部分の銀行、金銭、及び小売取り引きを、個人データ記憶及び振替カード(DSTC)の使用により果たすことができ、そしてこのカードは、“トランスアクター”、略して“XATR”と呼ばれる個人携帯用ターミナルの助けによって、個人の金銭上の借り方と貸し方の両方の記録を連続的に監視しかつ記録するために使用することができるであろう。」(2頁右下欄19行~3頁左上欄6行)と記載され、さらに「第2図Aを参照すると、XATRの上面は本質上第1図に示されたようなオペレーターインターフェイス区分210に相当する。その上面には、キーボード211、オンオフスイッチ212、及び文字数字式ディスプレイ213が位置している。」(6頁右下欄8~13行)と記載され、さらに「前記データを、例えば空気結合を経て個人のDSTCに入力することのできる」(3頁右上欄19、20行)と記載され、さらに「情報伝達は直列バイト及び直列ビットであると考える。」(4頁右下欄9、10行)と記載され、さらに「XATRのディジタル回路は、点数ブロック250内にある。このブロック内に、ディジタルプロセッサー251が示され、かつその主要な機能は、制御、メッセージフォーマット、メッセージ引き出し、チェック、加算、減算、及び入出力動作である。それ自身の制御ルーチン及び種々のモードの動作内で実行するルーチンのために必要な読み出し専用メモリ、及びこのようなルーチンの実行のために必要な一時的データ記憶メモリ以外には、このプロセッサーは記憶装置を含まない。」(6頁左上欄8~17行)と記載され、さらに「スロット227はXATRの底部に形成され、」(7頁右上欄5、6行)と記載され、さらに「第5図は、典型的金銭取り引き中のDSTCの動作又は他のデータ修正/記憶動作と関連した要素を示す典型的DSTCの中央断面図である。この図には、DSTCがスロット237内に存在するということを示すために、XATR内のセンサー231と協働する永久磁石挿入体131が示されている。要素132はDSTCの電子回路を示し、かつこれは二次巻線135に接続された整流器、要素133に接続された受信器、、要素134に接続された送信器、種々のディジタル制御回路、及びディジタル記憶要素を含むことができる。XATRからの指令に応答して、DSTCはXATRから受け取ったデータを記憶するか、又はDSTC内に記憶されたデータをXATRに伝達する。要素133はコンデンサープレートであり、かつそれは、XATR内の同様なプレート(すなわち233i)と組み合せて、XATRからの変調無線周波数信号用の情報受け取り通路を構成する。要素134はコンデンサープレートであり、かつそれは、XATR内の同様なコンデンサープレート(すなわち234i)と組み合せて、DSTCからの変調無線周波数信号用の情報伝達通路を構成する。」(8頁左上欄11行~右上欄13行)と記載されている。この記載から引用例1には次のものが記載されていると認められる。

手動によるデータ入力のためのキーボードおよびディスプレイを備えた個人携帯用ターミナル(XATR)を含んでいる、計算またはデータ処理のための携帯用装置であって、

前記個人携帯用ターミナル(XATR)内に配置されたデジタルプロセッサーおよび読み出し専用メモリと一時的データ記憶メモリとからなるメモリを含んでおり、第1の組の所定のデータ処理操作を遂行するために、前記キーボードおよび前記ディスプレイに結合されているXATRのディジタル回路と、

前記XATRのディジタル回路に対して空気結合を経て電気的に接続される着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するためのディジタル制御回路およびディジタル記憶要素を有するDSTCの電子回路を具備している着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)を、その中に受け入れるためのスロットと、

前記XATRのディジタル回路と前記DSTCの電子回路とを接続する空気結合での変調無線周波数信号の変化により、前記XATRのディジタル回路と前記DSTCの電子回路との間において直列ビットで情報を双方向に伝送するための手段を備えており、

前記読み出し専用メモリと一時的データ記憶メモリとからなるメモリは、双方向性の通信を実行し且つ前記第1の組のデータ処理操作を実行するように前記ディジタルプロセッサーを制御するためのプログラムを格納していることを特徴とする携帯用装置。

(3)  そこで、本願発明と引用例1に記載されたものとを比較すると、本願発明のケースは引用例1の個人携帯用ターミナル(XATR)に、本願発明の第1のマイクロプロセッサは引用例1のディジタルプロセッサーに、本願発明の第1のメモリは引用例1の読み出し専用メモリと一時的データ記憶メモリとからなるメモリに、本願発明の第1の処理手段は引用例1のXATRのディジタル回路に、本願発明の担体は引用例1の個人データ記憶及び振替カード(DSTC)に、本願発明の第2の処理手段は引用例1のDSTCの電子回路にそれぞれ対応するから、両者は、

手動によるデータ入力のためのキーボードおよびディスプレイを備えたケースを含んでいる、計算またはデータ処理のための携帯用装置であって、

前記ケース内に配置された第1のマイクロプロセッサおよび第1のメモリを含んでおり、第1の組の所定のデータ処理操作を遂行するために、前記キーボードおよび前記ディスプレイに結合されている第1の処理手段と、

前記第1の処理手段に対して電気的に接続される着脱可能な担体にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している着脱可能な担体を、その中に受け入れるためのスロットと、

前記第1の処理手段と前記第2の処理手段とを接続し、前記第1の処理手段と前記第2の処理手段との間においてシリアル・ビット形式でメッセージを双方向に伝送するための手段を備えており、

前記第1のメモリは、双方向性の通信を実行し且つ前記第1の組のデータ処理操作を実行するように前記第1のマイクロプロセッサを制御するためのプログラムを格納していることを特徴とする携帯用装置、である点で一致し、次の点で相違する。すなわち、

<1> 第1の処理手段と担体との接続が、本願発明は開路可能に電気的に接続されるのに対して、引用例1のものは空気結合を経て電気的に接続されている点

<2> 第2の処理手段が、本願発明は第2のマイクロプロセッサ及び第2のメモリを有するのに対して、引用例1のものはディジタル制御回路及びディジタル記憶要素を有する点

<3> メッセージの伝送が、本願発明は、第1の処理手段と第2の処理手段とを接続する単一の導体上での信号の変化により、前記第1の処理手段と前記第2の処理手段との間においてシリアル・ビット形式でメッセージを双方向に伝送するのに対して、引用例1のものは、XATRのディジタル回路とDSTCの電子回路とを接続する空気結合での変調無線周波数信号の変化により、前記XATRのディジタル回路と前記DSTCの電子回路との間において直列ビットでメッセージを双方向に伝送している点

<4> 第2のメモリが格納しているものが、本願発明は双方向性の通信を実行し且つ第2の組のデータ処理操作を実行するように第2のマイクロプロセッサを制御するためのプログラムを格納しているのに対して、引用例1のものはその点について明示していない点

でそれぞれ相違している。

(4)  上記相違点について検討する。

<1> について、電気的接続の方法として、開路可能に電気的に接続するか、変調無線周波数信号を用いた空気結合により電気的に接続するかは、当業者にとって単なる設計上の変更にすぎないものと認められるから、この相違点に発明の存在を認めることはできない。

<2>について、一般的に、カード上にマイクロプロセッサ及びメモリを設けることは周知であるから〔例えば、米国特許第4105156号明細書(本訴における甲第9号証、以下「引用例3」という。)、特開昭54-46447号公報等を参照。〕、引用例1のディジタル制御回路をマイクロプロセッサとし、ディジタル記憶要素をメモリとすることは当業者が極めて容易に想到し得ることであり、またその効果も格別のものとは認められない。

<3>について、二つの装置間において単一の導体上での信号の変化により、シリアル・ビット形式でメッセージを双方向に伝送することは、例えば特開昭54-162906号公報(本訴における甲第8号証、以下「引用例2」という。)等により周知であるから、この周知の伝送方式を引用例1のメッセージの伝送に用いることは当業者が格別困難なくなし得ることであり、またその効果も格別のものとは認められない。

<4>について、上記相違点<2>に示した周知例のカード上のメモリに、データ処理操作を実行するプログラムと、データ通信を実行するプログラムが格納されていることを考慮すると、引用例1のDSTC上のメモリとしてディジタル記憶要素にも、マイクロプロセッサのデータ処理操作および通信を実行するためのプログラマを格納しうるようにして、本願発明の担体上の第2のメモリと同じようになしうることは当業者が容易に推考できることであり、またその効果も格別のものとは認められない。

(5)  したがって、本願発明は、引用例1ないし引用例3及び周知例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の理由の要点に対する認否

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用例1に「前記XATRのディジタル回路に対して空気結合を経て電気的に接続される着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するためのディジタル制御回路およびディジタル記憶要素を有するDSTCの電子回路を具備している着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)を、その中に受け入れるためのスロットと、」との記載があるとの認定は争い、その余は認める。同(3)のうち、本願発明と引用例1記載のものとが、「前記第1の処理手段に対して電気的に接続される着脱可能な担体にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している着脱可能な担体を、その中に受け入れるためのスロットと、」との点で一致していること、及び相違点<2>の認定については争い、その余は認める。同(4)のうち、相違点<2>、<4>についての判断は争い、その余は認める。同(5)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

<1> 審決は、引用例1の携帯用装置のDSTC(着脱可能な個人データ記憶及び振替カード)の電子回路について、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するためのディジタル制御回路およびディジタル記憶要素を有する」と認定し(甲第1号証7頁18行ないし末行)、この認定に基づいて、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している着脱可能な担体を、その中に受け入れるためのスロット」を具備する点において、本願発明と引用例1記載のものとは一致すると認定している(同9頁17行ないし末行)が、上記認定はいずれも誤りである。

本願発明においては、携帯用装置のケースの第1の処理手段によって第1の組のデータ処理操作が遂行され、着脱可能な担体の第2の処理手段によって第2の組のデータ処理操作が遂行される。そして、第2の組の所定のデータ処理操作は第2のマイクロプロセッサによって行われるものである。

ところが、引用例1(甲第7号証)には、第2のマイクロプロセッサについて開示されていない。引用例1には、「XATRからの指令に応答して、DSTCはXATRから受け取ったデータを記憶するか、又はDSTC内に記憶されたデータをXATRに伝達する。」(甲第7号証8頁右上欄1行ないし4行)と記載されているように、DSTC(着脱可能な個人データ記憶及び振替カード)のディジタル制御回路及びディジタル記憶要素は、XATR(個人携帯用ターミナル)の指令の下に、単に記憶及び記憶制御装置として機能し、XATRと一体となって第1の組の所定のデータ処理を遂行するためのものであり、第1の組の所定のデータ処理と独立した第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するものではない。具体的には、引用例1記載のものでは、XATRがプロセッサとして機能し、DSTCが、XATRの指令の下に、記憶及び記憶制御装置として機能して、両者が一体となって第1の組のデータ処理のみが行われる。

<2> 被告は、引用例1記載のものにおいて、ディジタル制御回路及びディジタル記憶要素が第2の組のデータ処理操作を遂行しているとして、審決の一致点の認定に誤りはない旨主張する。

本願発明の特許請求の範囲には、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2のマイクロプロセッサおよび第2のメモリを有する第2の処理手段」と記載されているから、「第2の組の所定のデータ処理操作」がマイクロプロセッサによって遂行されることは明らかである。そして、「第2の組の所定のデータ処理操作」という特定の用語は、一般的な用語の解釈を踏まえた上で、特許請求の範囲の文章の前後関係から文理解釈すべきであり、「第2の組の所定のデータ処理操作」は、マイクロプロセッサを必要とする、プログラムの実行等を含むデータ処理と解釈される。また、本願発明においては、ケース内の第1のマイクロプロセッサと着脱可能な担体の第2のマイクロプロセッサとが、双方向性の通信を介して、協働しながら第1及び第2の組のデータ処理操作を実行するように制御されるのであって、「第2の組の所定のデータ処理操作」は、着脱可能な担体の第2のマイクロプロセッサによって実行されるものとして、着脱可能な担体の第2のマイクロプロセッサと一体として解釈すべきものである。

したがって、引用例1に記載されたディジタル制御回路によって、一般的な用語としての「データ処理」が可能であることを前提とする被告の上記主張は失当である。

(2)  取消事由2(相違点<2>の認定及び判断の誤り)

<1> 審決は、本願発明と引用例1記載のものとは、「第2の処理手段が、本願発明は第2のマイクロプロセッサ及び第2のメモリを有するのに対して、引用例1のものはディジタル制御回路およびディジタル記憶要素を有する点」で相違すると認定している(甲第1号証10頁16行ないし19行)。

しかし、本願発明と引用例1に記載されたものとは、上記(1)で述べたとおり、本願発明が第2の組のデータ処理を遂行するのに対して、引用例1に記載されたものは第2の組のデータ処理を行わない点でも相違しているにもかかわらず、審決はこの相違点を看過している。

したがって、審決の相違点<2>の認定は誤りである。

<2> 審決は、相違点<2>について、「引用例1のディジタル制御回路をマイクロプロセッサとし、ディジタル記憶要素をメモリとすることは当業者が極めて容易に想到し得ることであり、またその効果も格別のものとは認められない。」と判断している(甲第1号証12頁9行ないし13行)。

しかし、審決は、上記<1>の相違点を看過したために、本願発明と引用例1に記載されたものとの課題の差異を看過している。すなわち、本願発明は、第1の組のデータ処理と第2の組のデータ処理とを遂行し、もって広範な用途に適合するようにすることを課題とする。具体的には、本願公告公報(甲第6号証)5欄21行ないし6欄4行の「発明が解決しようとする課題」に記載されているように、データ及びプログラムの記憶能力ならびにデータ処理能力を有する着脱可能な担体と接続でき、かつ双方向の対話を可能にする装置構造を利用することによって、使用者の指示の下に用途ごとに特定の機能を実行させ、担体自ら機能を実行する能力を持たせ、データに対する安全性、機密性を高めること等を課題とする。

これに対し、引用例1には、上記の本願発明が課題とする事項についての記載がなく、引用例1記載の発明は、本願発明の上記課題を欠缺しているから、引用例1に記載された第1の組のデータ処理を行う装置と、特開昭54-46447号公報(甲第10号証)に記載された第2の組のデータ処理を行う装置とを組み合わせるという着想がなされ得るとは当業界の技術常識では考え難い。

さらに、カード上にマイクロプロセッサ及びメモリを設けることは周知ではない。仮にカード上にマイクロプロセッサ及びメモリを設けることが周知であるとしても、これにより、携帯用装置において第1の組の所定のデータ処理と第2の組の所定のデータ処理とを行う課題並びに課題解決手段が周知であるとはなし得ない。

したがって、相違点<2>についての判断は誤りである。

<3> 被告は、引用例1の担体内において第2の組のデータ処理を行うディジタル制御回路をマイクロプロセッサに代えることは設計変更程度のことである旨主張する。

しかし、本願の優先権主張の基礎とされた出願の出願当時において、マイクロプロセッサは集積度及び信頼度に欠けるため、複数個のマイクロプロセッサを協働させて処理を行うのは容易ではなかった(乙第5号証280頁、282頁)。さらに、本願発明においては、携帯可能なケースと着脱自在の担体とにマイクロプロセッサを備えた構成のため、主にサイズ上の制約も厳しいものがあった。本願発明は上記のような技術的背景の下に、それぞれマイクロプロセッサを備えたケースの第1の処理手段と着脱自在の担体の第2の処理手段とが双方向性の通信を実行しながら、それぞれ第1の組のデータ処理操作と第2の組のデータ処理操作とを遂行する構成を実現したものであり、当業者が容易になし得たものではない。

(3)  取消事由3(相違点<4>についての判断の誤り)

上記のとおり相違点<2>についての判断は誤りであり、この判断を前提とする相違点<4>の判断も当然に誤りである。

審決は、カード上のメモリに、データ処理操作を実行するプログラムと、データ通信を実行するプログラムを格納することが周知であるとしているが、誤りである。

(4)  取消事由4(本願発明の顕著な作用効果の看過)

本願発明は、第1の組の所定のデータ処理と第2の組の所定のデータ処理という互いに別個の処理を行う第1及び第2のマイクロプロセッサをそれぞれ備えた第1及び第2の処理手段を設けた構成において、第1の組のデータ処理と第2の組のデータ処理とによる関数Rの比較を行い、結果が等しい場合に、第1の処理手段が第2の処理手段と共同して作業することが許可される。この結果、第2の処理手段から到来するデータならびに第2の処理手段へ送られるデータすべてを第1の処理手段の第1のマイクロプロセッサにより処理することができるようになり、きわめて広い範囲の応用が可能となるという顕著な作用効果が得られる。

審決は、本願発明の上記顕著な作用効果を看過している。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

データをメモリ要素に書き込んだり読み出したりすることは、必要な情報を得るために行うデータに対する一連の作業であって、データ処理には相違ない。引用例1記載の発明のディジタル制御回路及びディジタル記憶要素はXATRから受け取ったデータを記憶したり、記憶きれたデータをXATRに伝達しており、これらの動作はデータ処理であるから、第2の組のデータ処理操作はディジタル制御回路及びディジタル記憶要素が遂行していると認められる。

したがって、引用例1におけるディジタル制御回路及びディジタル記憶要素により行われるデータの書き込み、読み出しは、第1の組の所定のデータ処理とは異なる第2の組の所定のデータ処理に相当するから、引用例1のDSTCについて、「第2の組の所定のデータ処理を遂行するためのディジタル制御回路及びディジタル記憶要素を有する」とした審決の認定に誤りはない。

したがって、一致点の認定にも誤りはない。

(2)  取消事由2について

<1> 上記のとおり、引用例1におけるディジタル制御回路及びディジタル記憶要素は本願発明の第2の組のデータ処理に相当するデータ処理を遂行するのであるから、相違点<2>の認定に誤りはなく、原告主張の相違点の看過はない。

そして、第2の処理手段として、引用例1のようにXATR(第1のCPUに相当)の指令にて動作するディジタル制御回路を、本願発明のように第1のCPUとは別の第2のCPUにて行わせることは第1のCPUの処理を第2のCPUへ分散するもので、いわゆる分散処理と認められる。この分散処理は一般的に行われているものであり、カードを用いるデータ処理においても、カード上にCPUを設けて分散処理を行うことは、甲第9、第10号証に示されるように周知技術である。甲第9、第10号証には担体(カード)内のデータ処理をカード上にマイクロプロセッサを設けて行うことが記載されているとともに、甲第9、第10号証のカードはデータのために本体側に装着されて始めて動作するもので、本体側にはカードの処理手段(第2のCPUに相当)が起動する処理手段(第1のCPUに相当)が存在することは明白であることから、引用例1の担体内において第2の組のデータ処理を行うディジタル制御回路をマイクロプロセッサに代えることは必要に応じて適宜なし得る置換可能な設計変更程度のことである。したがって、審決の相違点<2>の判断も誤りはない。

<2> 原告は、引用例1には、使用者の指示の下に用途ごとに特定の機能を実行させ、担体自ら機能を実行する能力を持たせ、データに対する安全性、機密性を高めるという本願発明の課題がないから、引用例1に記載された第1の組のデータ処理を行う装置と、甲第10号証に記載された第2の組のデータ処理を行う装置とを組み合わせるという着想は得られない旨主張しているが、本願明細書の特許請求の範囲には上記課題を解決するための具体的構成が記載されていないから、上記主張は失当である。

(3)  取消事由3について

原告は、相違点<2>の判断は誤りであり、この判断を前提とする相違点<4>の判断も当然に誤りである旨主張するが、相違点<2>の判断に誤りはないから、上記主張は失当である。

カードに第2のCPUを設けて分散処理することは周知であり、第2のCPUがデータ処理とデータ通信処理を実行する以上、当然その実行プログラムがメモリに格納されていることは自明である。

したがって、相違点<4>についての判断に誤りはない。

(4)  取消事由4について

原告主張の作用効果は、カード上に第2のマイクロプロセッサ及び第2のメモリを設けて分散処理を行うことにより達成されるものであって、ディジタル剣御回路構成をCPU構成とすることにより当業者が当然に予測可能な作用効果であり、格別のものとは認められない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点のうち、本願発明と引用例1記載のものとの相違点<1>、<3>、<4>の認定、及び相違点<1>、<3>の判断については、当事者間に争いがない。

2  取消事由1について

(1)  引用例1(甲第7号証)に、「前記XATRのディジタル回路に対して空気結合を経て電気的に接続される着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するためのディジタル制御回路およびディジタル記憶要素を有するDSTCの電子回路を具備している着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)を、その中に受け入れるためのスロットと、」との部分を除くその余の審決認定の事項が記載されていること、本願発明と引用例1記載のものとは、「前記第1の処理手段に対して電気的に接続される着脱可能な担体にして、第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している着脱可能な担体を、その中に受け入れるためのスロットと、」との点を除くその余の点で審決認定のとおり一致していることは、当事者間に争いがない。

そして、引用例1の上記争いのない記載事項によれば、引用例1には、「前記XATRのディジタル回路に対して空気結合を経て電気的に接続される着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)」が記載されており、本願発明と引用例1記載のものとは、「前記第1の処理手段に対して電気的に接続される着脱自在な担体にして、」の点においても一致しているものと認められる。

また、引用例1(甲第7号証)中の「スロット227はXATRの底部に形成され、」(7頁右上欄5行、6行)との記載によれば、引用例1記載のXATRがDSTCを受け入れるためのスロットを具備していることは明らかである。

(2)  引用例1(甲第7号証)には、XATRのディジタル回路に対して空気結合を経て電気的に接続される着脱可能な個人データ記憶及び振替カード(DSTC)に関して、「このDSTC内に前記装置からの取り引きデータを入力するための手段が備えられる。一方のDSTC内に記憶された勘定残高を選択的に貸し方に記入し、そして他方のDSTC内に記憶された勘定残高を借り方に記入するための別の手段が前記装置内に含まれる。」(3頁右下欄11行ないし16行)、「第2に、XATR及びその固有のDSTCは、所有者に有用な他のデータ入力、記憶修正、及び計算又は表示機能を備えることができる。」(4頁右上欄11行ないし14行)と記載され、また、第5図に関して、「第5図は、典型的金銭取り引き中のDSTCの動作又は他のデータ修正/記憶動作と関連した要素を示す典型的DSTCの中央断面図である。・・・要素132はDSTCの電子回路を示し、かつこれは二次巻線135に接続された整流器、要素133に接続された受信器、要素134に接続された送信器、種々のディジタル制御回路、及びディジタル記憶要素を含むことができる。」(8頁左上欄11行ないし右上欄1行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、DSTCは、金銭取り引きに使用され、データを入力されたり、記憶したりするものであると解され、また、DSTCにはディジタル制御回路、ディジタル記憶要素が具備されていることは明らかである。

ところで、引用例1(甲第7号証)には、「DSTCに記憶されたデータはXATRを経て中央計算装置に入力することができる。」(4頁左上欄1行ないし3行)、「XATRからの指令に応答して、DSTCはXATRから受け取ったデータを記憶するか、又はDSTC内に記憶されたデータをXATRに伝達する。」(8頁右上欄1行ないし4行)と記載されており、これらの記載によれば、DSTCのディジタル制御回路及びディジタル記憶要素は、XATRの指令の下に、記憶及び記憶制御装置としてXATRと一体となって機能しており、第1の組の所定のデータ処理を遂行しているものと認められる。

被告は、引用例1記載の発明において、ディジタル制御回路及びディジタル記憶要素は第2の組のデータ処理操作を遂行している旨主張しているが、引用例1記載のものにおいては、第2の組のデータ処理操作が遂行されているものとは認め難い。

(3)  したがって、審決が、引用例1記載のディジタル制御回路及びディジタル記憶要素について、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するため」のものとした認定は誤りであり、この認定に基づいて、本願発明と引用例1記載のものとは、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している」着脱可能な担体を有している点において一致しているとした認定も誤りであるというべきである。

3  取消事由2について

(1)  原告は、本願発明と引用例1に記載されたものとは、本願発明が第2の組のデータ処理を遂行するのに対して、引用例1に記載されたものは第2の組のデータ処理を行わない点でも相違しているにもかかわらず、審決はこの点を看過しており、相違点<2>の認定は誤りである旨主張する。

確かに、上記2で説示したとおり、引用例1記載のディジタル制御回路及びディジタル記憶要素は第2の組の所定のデータ処理を遂行するものとは認め難いから、審決は、相違点2の認定にあたり、この点についての相違点を看過しているということになる。

(2)  甲第9号証(米国特許第4105156号明細書、1978年8月8日公開)及び甲第10号証(特開昭54-46447号公報、昭和54年4月12日公開)によれば、同甲各号証には、担体(カード)内のデータ処理をカード上にマイクロプロセッサを設けて行うことが記載されており、カード上にマイクロプロセッサ及びメモリを設けることは、本願の優先権主張日当時において周知であったものと認められる。そして、同甲各号証のカードはカードを読み取るための本体に装着されて始めて動作するもので、本体にはカードの処理手段(第2のCPUに相当するもの)を起動する処理手段(第1のCPUに相当するもの)が存在することは明らかである。また、乙第2号証ないし乙第5号証によれば、システム全体で遂行すべきデータ処理について、第1のCPUと第2のCPUとで別個にデータ処理し、互いに双方向通信して処理することは、いわゆる分散処理として周知のことと認められる。

そうとすると、カードとケースから構成される引用例1記載のものと、カードとカードを読み取るための本体との組合せを基本とする甲第9号証、第10号証記載のものとは同様の技術であって、両者を結び付ける点に困難性はないものというべきであり、また、上記のとおり、CPU間の双方向通信は周知である。

したがって、引用例1記載のものにおいて、DSTCをマイクロプロセッサを有する甲第9号証、第10号証に記載のカードに代えることは容易であり、それによって第2の組のデータ処理を行わせることも、当業者において容易に想到し得ることと認めるのが相当である。

(3)  原告は、本願発明は、データ及びプログラムの記憶能力ならびにデータ処理能力を有する着脱可能な担体と接続でき、かつ双方向の対話を可能にする装置構造を利用することによって、使用者の指示の下に用途ごとに特定の機能を実行させ、担体自ら機能を実行する能力を持たせ、データに対する安全性、機密性を高めること等を課題としているのに対し、引用例1記載の発明は本願発明の上記課題を欠缺しているから、引用例1に記載された第1の組のデータ処理を行う装置と、甲第10号証に記載された第2の組のデータ処理を行う装置とを組み合わせるという着想がなされ得るとは当業界の技術常識では考え難い旨主張する。

しかし、使用者の指示の下に用途ごとに特定の機能を実行させ、担体自ら機能を実行する能力を持たせるという点は、CPUを有しデータ処理を行うカードを用いることにより当然予測し得ることにすぎない。また、引用例1(甲第7号証)には、「本発明のさらに別の目的は、高度の保護、管理、及びプライバシーをDSTC及びこの装置の所有者に可能にする販売地ターミナル及び現金支給ターミナル等の外部装置と共に使用するための個人携帯用ターミナル装置を提供することである。」(3頁左下欄11行ないし15行)、「適切な入力キーを備えることにより、不正な取り引きの入力は、認められていない勘定の接近と共に、防止することができる。・・・この管理は明らかに、特別の勘定内に記録される事故的及び意図した取り引きエラーの両方に対して個人を保護し、そしてまた個人が明らかにすることを望まないかも知れない勘定データに、例えば他人、店、又は銀行が認知されていない接近をするのを防ぐ。」(12頁右上欄10行ないし20行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、引用例1記載のものも、データの安全性について考慮していることは明らかである。ちなみに、甲第10号証にも、「この内部処理によれば不正使用を試みようとする者がデータ担体を使用するのに必要な情報の性質を窃取する機会は完全に無くなる。」(2頁右下欄15行ないし18行)と記載されており、一般にICカードはデータの安全性について考慮しているものと認められる。

そして、上記(2)に説示したところに照らしても、甲第10号証のCPUを有しデータ処理を行うIC回路を有するカードを、ディジタル制御回路を有するカードを含む引用例1記載のものに応用することに困難性があるということはできない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

また原告は、本願発明は、マイクロプロセッサが集積度及び信頼度に欠けるため、複数個のマイクロプロセッサを協働させて処理を行うのは容易ではなく、サイズ上も厳しい制約があるという技術的背景の下に、それぞれマイクロプロセッサを備えたケースの第1の処理手段と着脱自在の担体の第2の処理手段とが双方向性の通信を実行しながら、それぞれ第1の組のデータ処理操作と第2の組のデータ処理操作とを遂行する構成を実現したものであり、当業者が容易になし得たものではない旨主張するが、叙上説示したところに照らして採用できない。

(4)  以上のとおりであって、審決が、引用例1記載のディジタル制御回路及びディジタル記憶要素について、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するため」のものと認定し、本願発明と引用例1記載のものとは、「第2の組の所定のデータ処理操作を遂行するための第2の処理手段を具備している」着脱可能な担体を有している点において一致していると認定した点は誤りであり、引用例1記載のものは第2の組のデータ処理を行わない点で本願発明と相違していることを看過したものであるが、上記(2)に説示のとおり、引用例1記載のものにおいて、ディジタル制御回路を有する担体(DSTC)をマイクロプロセッサを有する周知のカードに代えて第2の組のデータ処理を行わせることは、当業者において容易に想到し得ることと認められるから、審決の上記認定の誤り及び相違点の看過は審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。

4  取消事由3について

(1)  引用例3(甲第9号証)には、「図7に示された機械は、確認装置として、識別体1がその中へ挿入されるリーダ37を含む。リーダ37は、識別体1に電力及びデータを供給し、識別体からデータを受け取る。識別体1の中の、処理装置PU10は、プログラムメモリ11と共に、識別体1の中にあって、前記機械を制御する。」(8欄56行ないし62行)と、甲第10号証には、「しかもデータ担体内に記憶されているデータの内部処理およびデータ担体に接続された処理装置とのデータ交換の外部処理のための処理装置を備えておって、」(2頁左下欄2行ないし5行)、「端子6は、入りデータおよび出データに対する唯一のアクセス手段であり、マイクロプセッサは、転送方向に依存してデータを直列化したり直列分離することにより対話を司る。」(3頁右上欄6行ないし9行)、「領域20は、マイクロプロセッサのための動作プログラムを記憶している。」(3頁左下欄6行、7行)とそれぞれ記載されていることが認められ、これらの事実によれば、カード上のメモリに、データ処理操作を実行するプログラムと、データ通信を実行するプログラムを格納することは周知であったものと認められる。

したがって、引用例1のDSTC上のメモリとしてのディジタル記憶要素に、マイクロプロセッサのデータ処理操作及び通信を実行するためのプログラムを格納して、本願発明の担体上の第2のメモリと同じようにすることは、当業者において容易に推考できたことと認められる。

(2)  原告は、相違点<2>の判断は誤りであり、この判断を前提とする相違点<4>の判断も当然に誤りである旨主張するが、上記3に説示したところに照らして採用できない。

したがって、取消事由3は理由がない。

5  取消事由4について

本願明細書には、「このようにして構成された装置は、特に個人が、このような装置の所有者または機関によって設定された私用カード索引、たとえば電話索引、医療用ファイル、住所録、カレンダ、予約ノートとして使用することができる。」(甲第6号証6欄41行ないし7欄2行)、「装置の処理装置は、着脱自在の担体内に格納されているプログラムを直接実行して、該担体に格納されているデータに応じた機能を実現することができる。また、着脱自在の担体内に記録されているプログラムを該担体内のマイクロプロセッサが実行し、その実行の結果について装置が適当な処理を実行する。実際には装置は担体のメモリ内に格納されている識別コードおよび秘密コードSの関数Rを計算することができる。同じ計算を担体内で行ってもよい。処理動作が完了すると、装置は、担体および装置内で同時に計算された関数Rの比較を行う。結果が等しい場合には、装置は該担体と共同して作業するすることが許されるという結論を出す。従って、着脱自在の担体から到来するデータならびに該担体に送られるデータ全てを装置のマイクロプロセッサにより処理することができる。着脱自在の担体により装置が特定の機能を割当てられる場合には、ディスプレイに示されるモードまたは指示に従ってキー・ボードのキーに特殊な意味を付与することを可能にするエントリを格納するキャッシュ・メモリを携帯用装置に設けることが可能である。」(同9欄9行ないし32行)と記載されていることが認められる。

しかし、上記記載の本願発明の作用効果は、担体(カード)上のマイクロプロセッサ及びメモリが奏するものであって、当業者に予測可能なものにすぎず、格別のものということはできない。

したがって、取消事由4は理由がない。

6  以上のとおりであるから、「本願発明は、引用例1ないし引用例3及び周知例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる」とした審決の判断は、その結論において誤りはないものというべきであって、審決に取り消すべき違法があるということはできない。

よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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